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ドイツの教育制度

ドイツの教育制度①  

「ドイツ人は働かない」「定時になると仕事が残っていても帰ってしまう」日頃、そんな風に感じている方も多いのでは。今回は、日本とドイツの働き方の違いや、ドイツ人採用にあたってのポイントを教育の観点から見ていきたいと思います。 

 

能力とは何か 

ドイツはキリスト教国です。聖書のタラントの喩え(マタイによる福音書25章14-30節)をご存じでしょうか。神が3人の旅人にそれぞれ5タラント、2タラント、1タラントのお金を渡します。5タラントもらった人はそれを元手に商売し5タラントもうけ、2タラントもらった人も同様に2タラントもうけ、1タラントもらった人はその元手を失わないように土の中に埋めて隠しておきます。再び神のもとに戻ってきたとき、 金もうけした旅人は神の祝福を受け、埋めた旅人は神の怒りを買い、すべてを取り上げられてしまうという話です。その際、神は「せめて銀行にでも預けておけば、利子がもらえたのに」となじります。何だかなあという話ではありますが、渡したお金タラントが、実はタレント(才能)の語源です。つまり神が与えた才能は人によって違い、生まれながらにして不平等。その不平等を前提にその人なりにがんばればよいというわけです。ドイツ語で才能は「Gabe」。「geben(与える)」から派生した言葉で、まさに神の贈り物。個人の努力次第で変わるものではありません。 

 

ドイツと日本の教育観の比較 

ドイツの教育は、「人間とはどうあるべきか」という哲学的思想の枠の中で、「子供はどうあるべきか、将来のよりよい社会のための構成員を育てるために何をすべきか」という発想から生まれています。つまり「あるべき」社会像が先で、それを実現するために、才能の違う個々を象嵌していく演繹法です。神から与えられた能力が高い子供は高い教育を受ける権利があり、指導的な立場になれるような教育環境が与えられます。逆に能力が低い子供は、学力到達目標が低く設定され、手に職を持って社会に貢献できる教育を受ける権利があります。ドイツでは、将来どの層に属するかという進路決定を、小学校4年時、つまり10歳前後で決めてしまいます。「三つ子の魂百まで」は日本のことわざですが、神様の贈り物の大きさは変わるものではないため10歳までで十分判断できると考えるからでしょう。早いうちに進路を決め、それに沿った教育や指導を受けたほうが、合理的な部分もありますし、ストレスも少なくなります。 

一方、日本はどうでしょうか。日本の教育の基本は寺子屋で、「真似る」「反復」を繰り返す中で文字通り体得、体に覚えさせるやり方です。柔道、剣道などあらゆる「道」にも通じる手法です。ここから生まれた教育は、生まれながらの才能の不平等については不問で、教育機会の平等と、それに伴う結果の平等性を説きます。つまり「やればできる」という論法です。ここでは能力は可変であり、本人の努力次第(プラスそれを促す指導)でいくらでも伸ばせると考えられています。教育現場では、「こうしたら、これだけ学力が伸びた」というような事例研究が日々交わされ帰納的アプローチが展開されています。どんな人でも頑張れば、良い学校、良い大学に行け、良い企業に就職し、上流な生活を送ることができるチャンスがある。それをモチベーションとして、みんな努力して能力を上げようします。しかし機会の平等が担保されても、現実的には個人の能力や家庭環境などで叶わぬこともありますし、受験戦争という過酷な競争に巻き込まれ、ストレスも多くなります。 

どちらがいいのか、それは単純に答えを出すことはできません。 

日本人が、よりよくするための努力を欠かさず、高いストレス耐性を持つ、これは日本の教育の賜物です。でも日本流をドイツ人に強いても、「僕は僕の能力の範囲内で頑張ってやっているよ、なぜ?」で理解は得られません。 

 

ドイツの教育制度 

さて、前述のような考え方から整えられたのが、下の図のような教育制度です。かなりざっくりまとめたもので、州によっても若干異なります。小学校は4年生までで、5年生から、ギムナジウム(Gymnasium)、実科学校(Realschule)、基幹学校(Hauptschule)と進路別に分かれます。最近は、その3つを統合した総合学校(Gesamtschule)ができ、その他にも小学校から高校まで一貫した教育を行うシュタイナー学校などがあります。それぞれの学校では使っている教科書も違います。例えばギムナジウムでついていけない生徒が、実科学校へ、またその逆もありますが、一度振り分けられてしまうととりわけ左方向へ進むのは、相当ハードルが高いことになります。 

さて進路ですが、これもかなり乱暴ですが、基幹学校を出た人は職人や技師(technician)やワーカー、実科学校を出た人は、秘書、一般会社員、ギムナジウムを出た人は、エリート候補、研究開発などに携わる技術者(Engineer)といったイメージです。日系企業で採用するのは、倉庫や運送などのワーカーを除けば、多くはギムナジウムを出たエリート候補生になるのではと思います。 

ドイツと日本の教育観の比較

Abitur(アビトゥア)大学入学資格試験

ギムナジウムや総合学校では、卒業年次にAbiturと呼ばれる大学入学資格試験を受けます。最近は実科学校などを卒業した後、職業ギムナジウムに通い、実務に近い学科を3年履修してAbiturを受けるケースも出てきました。ドイツでは大学によるレベルの差は小さいですが、Abiturの成績で行ける学部が変わってきます。1が最高で全国平均は2.7程度。医学部に行くには限りなく1に近い成績が必要ですし、2になるとすでに行ける学部が限られてきます。

採用時のチェックポイント:CVにAbiturの成績もよく記載されています。1代であれば、地頭の良い候補者と判断できますし、成績が書いていなければ、聞いてみるのもよいでしょう。

 

大学について

高等等教育を授ける機関としてUniversität(総合大学)の他に、HochschuleやFachhochschule(専門大学・単科大学)などがあります。Hochschuleと聞くとハイスクールをイメージしがちですが、れっきとした大学。特に音楽大学や体育大学など特化した分野はHochschuleになります。

以前、大学卒と言えばDiplom(ディプロム)取得者でこれはほぼ修士号に当たるものでした。Diplomを取るには平均で6年。日本と違って必要単位を取るだけでも大変なのに加え、ドイツの学生は留学したり、働いたり、旅行したりと様々な経験を積むのに忙しく、結果、卒業するのは平均で30歳手前になっていました。そこで学生の高齢化と就労人口不足の対策として取り入れられたのが、Bachelor(学士)/Master(修士)制度です。現在では一般的にBachlor3年、修士2年で取れるようになり、卒業年齢は下がっていますが、それでも規定の年数で終える人は少ないよう。またDiplomの歴史が長かったせいか、Masterまで修学する学生が多く、とくに技術系ではそれが顕著で化学などでは博士号を取ってから就職なんていうのも一般的です。その一方で法学などのように学位がなく、国家試験(弁護士試験)に受からないと何の資格も得られないという分野もありますので、様々です。

 

採用時のチェックポイント:BachelorであってもMasterであっても学生時代Praktikum(インターン)をすることが普通で、義務としている学部もあります。ドイツでは日本のような新人研修はなく、こうしたPraktikumを通して社会人としてのマナーを身に着けていきますので、新卒採用の場合PraktikumのArbeitszeugnis(雇用主のリファレンスレター)には目を通すことをお勧めします。また日本と違って入るのはやさしいけれど出るのが難しいのがドイツの大学。卒業論文も精魂こめて書いていますので、是非内容を聞いてみましょう。その候補者がどんなことに興味を持ち、どんな考え方をするのか知る一助になります。またその成績を聞くのもマナー違反にはなりません。

 

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